セゾン自動車火災保険が「新CRMシステム」を導入し、新たな顧客接点の創出、顧客・契約数の拡大、顧客サービスの品質向上への取り組みを加速させている。その先に見据えているのは、「トッププロ代理店品質のサービスを備えたダイレクト保険会社」への進化である。本システムは、Salesforce Financial Services Cloudに実装した顧客接点ポータルとなるフロントシステム、Amazon Web Services(以下AWS)上に整備された独自の顧客データ連携基盤「Customer Data Platform(CDP)」から構成される。DXCテクノロジー・ジャパンは、保険契約管理、顧客応対履歴、保険金支払実績など、顧客対応業務に必要なあらゆる情報をリアルタイムで扱うための「統合化された顧客データモデル」を備えたCDPの設計・構築を全面的に支援した。
チャレンジ
- 「トッププロ代理店品質のサービスを備えたダイレクト保険会社」への進化と、これを支えるCRMシステムの整備
- 複数のシステムで扱う顧客関連情報を顧客接点ポータルから参照するための顧客データ連携基盤「Customer Data Platform(CDP)」の構築
- 鮮度の高い顧客関連情報を集約するためのデータ連携の「リアルタイム性」の追求
ソリューション
- DXCテクノロジーのアドバイザリー/デリバリーチームが、統合化された顧客データモデルを備えるCDPの設計・構築を全面的に支援
- Change Data Capture 機能を備えたデータインテグレーションソリューション「Talend」を中心にCDPを構築し、目標とするリアルタイム性を備えたデータ連携を実現
- CDP内にデータクレンジング・名寄せツール「Precisely Trillium」を組み込み、顧客情報のリアルタイムでのクレンジング・名寄せを実現
ベネフィット
- 統合化された顧客情報が即時に参照可能になり、新たな顧客接点の創出、顧客・契約数の拡大、顧客サービスの品質向上への取り組みが加速
- コールセンター/事故受付センターを中心とする顧客対応業務を効率化するとともに、現場主導で様々な業務プロセスの改善が可能に
- 顧客ごとに最適なコンサルティングやクロスセル/アップセルを効果的に行うための環境を整備
新CRMシステムを支える顧客データ連携基盤「CDP」
2022年9月、セゾン自動車火災保険が新しいCRMシステムを稼働させた。ダイレクト(通販型)損害保険事業会社としてSOMPOグループの一翼を担う同社は、業界トップクラスの成長率を誇る『おとなの自動車保険』や、補償を自由に設計できる『じぶんでえらべる火災保険』が好評を博している。保険証券を一括管理できる『ほけんnote』や、カーライフや防災をサポートする『SA・PO・PO』など、デジタル技術を活用した顧客サービスにも積極的だ。同社 執行役員 システムサービス部長の山中理氏は次のように話す。
「新CRMシステムは、コールセンター/事故受付センターに代表されるお客さま対応の最前線で、お客さま一人ひとりに最適な商品やサービスをご提供するための基盤として重要な役割を担うものです。デジタル技術とリアルでの接点を融合させ、ダイレクト保険ならではの商品力で強みを発揮しながら、お客さまとの緊密なコミュニケーションを通じてより良い関係づくりに取り組んでいます」
トッププロ代理店品質のサービスを備えたダイレクト保険会社――これが、セゾン自動車火災保険が目指す姿である。同社は、第三者による顧客満足度調査で第1位を獲得*するなど、保険商品に対する評価は非常に高い。だが市場競争は激しさを増しており、保険料や補償内容だけで優位性を維持することは難しくなりつつある。
「新CRMシステムをフルに活用して、お客さまとのより良いコミュニケーション機会を創出し、クロスセル/アップセルによりライフタイムバリューを高め、高品質なサービス提供を通じてお客さま満足度を向上させていくことが大きな狙いです。こうした活動を支えているのが、顧客マスタ、保険契約、応対履歴、保険金支払実績など、複数のシステムで扱うお客さま関連情報を統合し、お客さまと向き合う現場部門のスタッフが即座に参照できるようにした顧客データ連携基盤(Customer Data Platform:CDP)です」(山中氏)
新CRMシステムのバックエンドに顧客データ連携基盤「CDP」が統合されたことで、顧客の保険加入状況を即座に把握し、顧客のライフステージごとに最適な商品やサービスを提案し、顧客ごとに質の高いコンサルティングを提供するための環境が整った。DXCテクノロジーはCDPの設計・構築を全面的に支援し、セゾン自動車火災保険のCRM戦略の前進に大きく寄与している。
統合化された顧客データモデルとCDPの設計
DXCテクノロジーは、2017年にCSCとHewlett Packard EnterpriseのEnterprise Services部門の事業統合により誕生した世界屈指のITサービス企業である。保険契約管理システムに代表されるセゾン自動車火災保険の中核システムの開発・運用に、2010年(当時はCSCジャパン)より携わってきた。保険業務に精通したビジネスアナリストと、データ連携基盤構築やクラウド/インフラ領域で豊富な経験を持つエンジニアチームを擁していることがDXCテクノロジー・ジャパンの強みだ。
新CRMシステムは、「Financial Services Cloud」による顧客接点ポータルと、AWS上に構築された独自の「顧客データ連携基盤(CDP)」により構成されている。
「新CRMシステムを利用するコールセンターでは、お客さまからの着信を起点に顧客接点ポータル上でその顧客情報の画面が立ち上がり、契約内容、見積情報、応対履歴、保険金支払実績など、お客さまとのコミュニケーションに必要な情報を即座に把握できスムーズな応対が可能になりました。従来の環境では、複数のシステムの画面を起動させて情報を探し当てる必要があったのですが、こうした非効率は一掃されました」と山中氏は話す。
2021年初頭に始まったプロジェクトの初期段階では、事業部門との協議を通じてCDPに統合する顧客データの選定が慎重に進められた。アドバイザリーを担当したDXCテクノロジー・ジャパンの安藤司氏は次のように話す。
「アーキテクチャやデータモデルが異なる7系統のシステムから必要な顧客関連情報を抽出し、単一のCDPに統合するために私たちが重視した点は大きく3つありました。①統合化された顧客データモデルの設計、②統合対象となるシステムの更新を検知してデータ連携させる仕組み、③統一されていない同一のお客さま情報を個人ごとにまとめる名寄せ処理 です」
数百に及ぶテーブルを統合するCDPの設計には、既存システムのデータモデルに対する理解が欠かせない。DXCテクノロジー側でプロジェクトマネジメントを務めた保険デリバリー統括本部の生田目和之氏は、CDP設計の基本方針を次のように説明する。
「Financial Services Cloudオブジェクトのデータモデルにマッピングすることを前提に、オペレーショナルデータストアであるCDPの論理設計を行いました。統合対象の7システムの異なるデータモデルに対し、データの関連性を考慮しデータ連携機能を実装していることが設計上のポイントです。また、数千規模の項目を網羅する必要がありますので、十分な処理性能が得られるリソースを確保しつつ、可用性と拡張性を考慮したインフラ設計としました。CDPの中核機能であるデータ連携にはChange Data Capture 機能を備えたデータインテグレーションソリューション『Talend』を、名寄せには日本語での実績が豊富なデータクレンジング・名寄せツール『 Precisely Trillium』を採用しています」
リアルタイムでのデータ連携をいかに実現するか
CDPでは、TalendのChange Data Capture機能により統合対象のシステムで入力・更新・削除を検知して自動的にデータが収集され連携される。また、データ連携方式としてJDBCクローリングも採用している。本システムの第1フェーズでは、複数契約している個人を1顧客としてまとめる名寄せ処理もPrecisely Trilliumによって実装された。
「鮮度の高い情報でお客さまとコミュニケーションするために、CDPは常に最新化されている必要があります。そのためには、データが収集されてCDPに反映されるまでがリアルタイムに近いスピードで実行されなければなりません。数百に及ぶテーブル、数千規模の項目を扱う神経細胞のように複雑なプロセスをいかに高速化するかが技術面での大きな課題でした」と山中氏は話す。
DXCテクノロジーのエンジニアチームは、複雑なデータ連携プロセス上のボトルネックを一つひとつ潰しながら、AWSのリソースを安易に増やすことなく、チューニングによって秒単位でパフォーマンスを引き上げていった。
「一例ですが、Talendによるテーブルサーチの処理がボトルネックになっていることを確認し、サーチの順序を見直したことで大幅に処理時間を短縮しています。また、TalendとPrecisely Trilliumを連携させる際にストレージがボトルネックにならないよう配置を工夫するなど、AWSのリソースをいかに上手に使うかを設計段階から考慮したことも効果的でした。こうした地道な改善の積み重ねによって、最終的に目標とした処理時間を達成することができました」(生田目氏)
顧客データの統合がもたらした現場からの業務改善
新CRMシステムの利用が始まっておよそ半年――セゾン自動車火災保険の顧客対応の現場では、様々な変化が起こっているという。
「複数のシステムを立ち上げなければ見られなかったお客さま関連情報が、顧客接点ポータルの単一画面から参照可能になったことで、コールセンター/事故受付センターにおけるお客さまへの応対がスムーズになり、応対時間の短縮化につながっています。見たい情報を容易に見られるようになったことで、現場チームの意識も徐々に変わってきました。実際に、現場チームから様々なアイディアが提案され、現場主導で業務改善のチャレンジが始まっています」と山中氏は笑顔を見せる。
関係部門間での情報共有のスピードと質が大幅に改善されたことにより、事故対応、お客さまとの連絡、事務手続きなど、部門横断的な業務プロセスの高速化も期待されている。
「新CRMシステムをさらに使いこなすことで、業務の効率化とスピード化は着実に進んでいくでしょう。次のチャレンジは、お客さま一人ひとりのライフステージに合わせたコンサルティング、クロスセル/アップセルなどを通じて保険会社としてのトップラインを高めることです。マーケティングオートメーションを活用したお客さまへの情報提供や提案活動はすでに始まっています」(山中氏)
DXCテクノロジーのチームは、保険業務とテクノロジーにおける知見をフルに活用して、およそ1年半に及ぶプロジェクトを完遂させた。セゾン自動車火災保険のビジネス目標と課題を捉えたソリューション提案力、大規模かつ複雑なデータ連携をリアルタイムに近づけた技術力、困難に直面した際の課題解決力など、山中氏はDXCテクノロジーのポテンシャルの高さを改めて実感したという。そして、「本プロジェクトは、保険業務に精通し、統合対象となるデータの中身をしっかりと理解したDXCテクノロジーのビジネスアナリストとエンジニアチームが緊密に連携したからこそ完遂できた」と話しつつ次のように結んだ。
「初期段階のDXCテクノロジーの提案の質と量はまさに段違いで、正直なところ感動すら覚えました。プロジェクトが始まってからは様々な困難に直面しましたが、常に建設的な議論を重ねることができただけでなく、圧倒的な熱量で解決に取り組んでもらえたことに感謝しています。新CRMシステムの整備によって、複数契約率を上げる、継続率を上げる、新規加入者を増やすといった、新しいビジネスチャレンジのスタートラインに立つことができました。DXCテクノロジーには、今後も継続的なサポートと新しい提案を期待しています」