日産自動車が、国内の約40,000ユーザーが使うPC 環境/デジタルワークプレイスの進化を加速させている。専任エンジニアが対面でPC の保守を行う「Digital TechCafé」を2019年に開設し、ユーザーがPCを持ち込んでその場で問題を解決できる体制を整備。
2021年にはクラウドベースのIVR サービス「Amazon Connect」を導入し、ヘルプデスク運営をより柔軟で高効率な仕組みへ移行した。さらに、デバイスヘルスモニタリングツール「Aternity」の導入を進めプロアクティブなPC管理を目指している。日産自動車のモダンワークプレイスへの取り組みと、これを支えるDXCテクノロジーの多彩なソリューション/サービスを紹介する。
柔軟な働き方をサポートするPC 環境の整備
日産自動車の「働き方改革」への取り組みは1990年代にまで遡る。1994年に業界に先駆けてコアタイムなしのスーパーフレックス制度を導入し、2006年からは生産工程を除く全従業員の在宅勤務を可能にした。2015年にスタートさせたHappy8では、「全従業員が1日8時間の業務時間を意識することで、個人と組織の生産性を上げ、その結果、仕事も生活も充実させる」という目標を打ち出している。グローバルデジタルプラットフォーム本部の原直子氏は次のように話す。
「日産は、グローバル化を進める過程で、従業員一人ひとりの多様なニーズに応じた働き方の実現に取り組んできました。目指しているのは、多様な価値観、育児・介護など様々な事情を持つ従業員が100%の力を発揮して活躍できる環境づくりです。コロナ禍においては、コアタイムなしのスーパーフレックス制に加え、上限なしのリモートワーク制度が適用されました」
これらを支えているのが、協力会社を含め全社で活用されるおよそ40,000台の Windows PCであり、働く場所や時間を選ばない日産独自のデジタルワークプレイスだ。
「PC、リモートアクセス、セキュリティへの取り組みが先行していたため、コロナ禍での在宅勤務はスムーズに進められたと思います。私たちIS/IT 部門の役割は、エンドユーザーがオフィスや自宅などどこにいても業務を行えるよう、PC 環境/ デジタルワークプレイスを最適に維持・運営していくことです。DXCテクノロジーは、この領域における最も重要なパートナーです」と同本部の高桑正輝氏は話す。
DXC テクノロジー・ジャパンは、2010年(当時は日本ヒューレット・パッカード)より日産全社およそ40,000台のPC 環境の運用保守をトータルに支援している。グローバルで標準化されたOS/ アプリケーションのマスターイメージ作成・管理・配布、PCのキッティング、ヘルプデスクの提供、オンサイト支援など守備範囲は広い。
「2019年より、PC 環境/ デジタルワークプレイス領域で3つの新しいチャレンジを進めてきました。
①ウォークイン型サポートデスクの開設、②クラウドベースのIVR サービスの導入、③ デバイスヘルスモニタリングツールの導入です。
これらの取り組みは、目の前のコロナ対策だけでなく、ニューノーマル時代に求められる快適で生産性の高い働き方を支える基盤となるものです」と高桑氏は力を込める。
対面方式のサポートデスクがユーザーの満足度を向上
日産では、40,000ユーザーのPC 環境/ デジタルワークプレイスを最適に維持・運 営するために、100名規模のエージェントが対応するヘルプデスクを整えている。PC の操作に関する質問、不調時の問題解決、各種アプリケーションのテクニカルサポートを提供するために各分野のエキスパートが集結した。グローバルデジタルプラットフォーム本部の原直子氏は次のように話す。
「従来からのヘルプデスクは電話対応が中心でしたが、電話では解決が難しい、気軽に相談しにくい、といった思いを抱えているユーザーが多いことがわかっていました。安定したサービス提供と適切なサポートを通じてユーザー満足度を高めることは、私たちIS/IT 部門の重要なミッションです。対面で相談できるウォークイン型のサポートデスク『Digital Tech Café』の実現は、私たちの念願でもありました」
Digital Tech Café は、日産グローバル本社に2019年8月、日産テクニカルセンターには2021年2月にそれぞれ開設された。DXCテクノロジーのサポートエンジニアが常駐し、 PC に関するちょっとした困りごとから、不調や障害の原因解明、データ復旧、代替機の即時提供など、ユーザーの疑問や問題の解決をその場で行う。
「対面なので明確に困りごとを説明できる、目の前でPCの操作を見ながら疑問を解消できる、問題解決の時間と手間が大幅に低減された――Digital Tech Café を利用したユーザーに対するアンケートでは、こうした主旨の回答を多数いただきました。また、95%以上の回答者がサービスに満足していると答えています」(原氏)
Digital Tech Café のサービス品質を評価する指標のひとつに「30分以内の問題解決率」がある。このスコアは、テクニカルセンターで97%、グローバル本社では実に99%に達している。平均対応時間はそれぞれ 20分以内に収まっており、迅速な問題解決がユーザーの高い満足度につながっていることがわかる。
「問題解決のスピード化は、ユーザーの業務の生産性向上に直結します。ユーザーの声を収集し、ユーザーの評価をスコアで示すことで、投資に見合った価値が得られていることを社内に説明でき、経営層からの支持も得られています。Digital Tech Café という対面でサービスできるチャネルを得たことで、IS/IT 部門のプレゼンスの向上を実感できることも嬉しい成果です」と高桑氏は笑顔を見せる。
クラウドIVR を導入しヘルプデスクを変革
日産のヘルプデスクでは、PC 環境/ デジタルワークプレイスから各種アプリケーションまで、それぞれの分野のエキスパートおよそ100名が日々の問い合わせに対応している。ユーザーからの電話がヘルプデスクに入ると、IVR(自動音声応答システム)のガイダンスに沿った手順を経て、問い合わせ内容ごとに担当エージェントに接続される仕組みだ。グローバルデジタルプラットフォーム本部の森井靖子氏は次のように話す。
「既存のIVR はシステムとヘルプデスクの電話機が一体化されており、これがエージェントの在宅勤務を進められない要因となっていました。この問題を解決するとともに、新しい要件や変更にも迅速かつ柔軟に応える環境を整えるために、クラウドベースのIVRサービスへの移行を決めました」
DXC テクノロジーが提案した「Amazon Connect」は、IVR やPBX などの機能をクラウドで提供し、固定電話不要でソフトフォンを使った音声通話が可能なソリューションである。DXC は、エージェントへのトレーニングを含め実質4か月でシステムの本番運用にこぎ着けた。
「エージェントはオフィス・在宅を問わずサポート業務の遂行が可能になりました。ネットワーク工事も不要で、期間限定の増員や体制変更にも柔軟に対応できます。また、不審メールなど突発的な事象が発生したときに、即座に音声ガイダンスを用意して警戒情報を掲載したWeb ページへ誘導するような運用も可能になっています」(森井氏)
既存のIVRシステムでは音声ガイダンスの追加や変更にベンダーを介して2週間程度を要していたが、セルフサービス化された Amazon Connect では数分レベルまで短縮されているという。
「問い合わせが急増したときに、ユーザーを困らせることのないよう適切な情報を提供し、エージェントは本来対応すべき事案に特化できるようになったことは大きな成果です。また、エージェントの柔軟な働き方を実現したことも、ヘルプデスクがより効率的で生産性の高いチームに進化するための一歩となるはずです」と高桑氏は評価する。
プロアクティブなデバイス管理の実現へ
グローバルデジタルプラットフォーム本部では、40,000ユーザー規模のPC 運用をさらに効率化し、より安定的な稼働を通じてユーザー満足度を高める新しい取り組みに着手している。キーワードは「プロアクティブなデバイス管理」である。高桑氏は次のように話す。
「2021年にデバイスヘルスモニタリングツールを導入しました。40,000台規模のPC の稼働状況や利用状況を正確に把握し、サービス品質の向上に結びつけるとともに、リソースやライセンスの最適化を図ることが狙いです。仏ルノーでの採用実績をふまえ、クラウドサービスとして大規模なデバイスモニタリングが可能なAternity を採用しました」
同本部では、Microsoft Endpoint Configuration Manager を利用して PC 資産管理やソフトウェア配布を行っているが、本格的なPC ヘルスモニタリングの導入は初めてだった。
「ユーザーは、PC に問題が発生してからヘルプデスクに連絡する、Digital Tech Café に駆け込むというのが現在の運用です。PC の起動が極端に遅くなっていないか、ディスクやメモリにエラーが発生していないか、といった事象をIS/IT 部門が把握することで、深刻な問題が発生する前にユーザーに保守対応を促すことができます」(高桑氏)
Aternityではユーザーのサービス体験をスコアリングして可視化できる。これを Aternity が収集している業界ごとのスコアと比較して、自社のサービス品質を客観的に把握できるサービスも利用可能だ。
「PC 環境全体を俯瞰的にかつ詳細まで把握できるようになったことは、私たちにとって非常に大きな進化です。たとえば、全社のPC リソースの使用状況を分析して、過負荷の状態が続いているユーザーや部門に対して多くのメモリを割り当てることも、逆に過剰に割り当てられたリソースを見直すこともできます。得られたデータから根拠を持って仮説を立案し、これを検証しながら全社のリソース計画の最適化に取り組んでいきたいと考えています」と高桑氏は話す。
ベネフィット
モダンに進化する日産のデジタルワークプレイス
DXCテクノロジーは、日産のPC 環境/ デジタルワークプレイス領域において、2019年からの2年間で3つの先進的なプロジェクトに携わってきた。それぞれDXC のグローバルでの実績と知見が活かされたものだ。
「Digital Tech Café、Amazon Connect、 Aternity――これらの新しいチャレンジを、企画段階から設計・開発・導入・運用まで一貫してDXC テクノロジーの支援を受けながら進めてきました。コロナ禍にありながら、3つのプロジェクトをすべて計画通り完遂できたことに感謝しています。中でも、 Digital Tech Café は『IS/IT 部門の顔』とも言うべき役割を担ってくれています。常駐しているDXC サポートエンジニアの仕事ぶり、スキルの高さには、大きな信頼と安心を感じています」と高桑氏は評価する。
「先進的なソリューションをいち早くご採用いただき成果を上げることができました。日産様のPC 環境/ デジタルワークプレイスの進化に貢献できたことが何よりの喜びです。今後はDigital Tech Café のサービスを工場などの他の拠点にも拡大し、さらに拡充•発展させるご支援をしていきたいと思っています」とDXC テクノロジーの名倉達也氏は話す。
DXCテクノロジーは、世界70か国に拠点を持つ世界最大級のITサービスカンパニーであり、その強みはテクノロジー人材に代表される豊富なグローバルリソースにある。同社の大井敦氏は「グローバルでのケーパビリティを活かして、さらに先進的なソリューションを提案していきたい」と話す。
日産では、グローバル標準を策定してPCを含むIT 環境の標準化を図っている。世界で評価されたテクノロジーが日本でも採用され、日本で優れた成果をあげたソリューションが世界標準になる。高桑氏は次のように話して締めくくった。
「日産のIT パートナーは、グローバルに展開するテクノロジー企業であることと、世界中で均質なサービスを提供できることを重視しています。DXC はこの要件に合致し、日本国内で良質なテクノロジーとサービスを提供できるパートナーです。これからも私たちのビジネスと、より快適で生産性の高いモダンワークプレイスの実現を支援してもらえることを期待します」
※本事例は、ISG社によって顕著な成果を生み出した事例として選出されました。