クルマでの移動を通して得られる体験が変わりつつあります。自動車ソフトウェア分野で生まれている数々の驚くべきイノベーションにより、自動車へのアクセスや操作方法から、ユーザーや環境との関わり方に至るまで、クルマにまつわる体験が根本的に変わろうとしています。
今後5年間で、下記に示す5つのトレンドが勢いを増していくと私たちは考えています。
1. クルマに搭載されるソフトウェアは、ロゴと同じくらい重要になります。
未来のクルマは、ソフトウェアで性能や機能を制御するSDVになります。
SDVは、車両の物理的な特性よりもそれによって得られるユーザーエクスペリエンスについて語られるようになります。ソフトウェアによって自動車メーカーとユーザーが直接つながり、クルマを通じてパーソナライズされたサービスをシームレスに提供するプラットフォーム主導の自動車ビジネスが可能になります。
何百万台ものクルマから得られる「クラウドデータ」は、自動車業界のエコシステム全体で、よりインテリジェントなモビリティサービスを提供するために利用することができます。例えば欧州では、クルマのユーザー、サービスプロバイダー、メーカー、サプライヤー間の緊密な相互連携を可能にするGaia-X 4 Future Mobilityという構想があります。この幅広いデータ交換から生まれるアプリケーションには、スマート交通インフラストラクチャ、車両ライフサイクル管理、自律走行車のためのデジタルツインなどがあります。
クルマがソフトウェアによって定義され、より緊密に相互接続されるようになると、その価値は物理的な特性を超え、ユーザーが利用できるサービスがますます広く、豊富になっていくでしょう。
2. クルマが自ら更新し、オンデマンドでのアップグレードを提案してくれるようになります。
携帯電話のソフトウェアは定期的に更新され、新機能、アプリ、セキュリティアップデート、パッチなどが提供されます。
同じように、ネットワークに接続されたSDVも進化していくと考えられますが、携帯電話のように自己修復したり、自己更新したりするほどの柔軟性を得られるようになるには、もう少し時間がかかるかもしれません。
世界の多くの自動車メーカーが、ソフトウェアとしてユーザーに提供するオンデマンドサービスをすでに試みています。BMWは、My BMW Appや車両に組み込まれたSIMカードを通じて、ダウンロード可能なソフトウェアを提供しています。ボルボでは、「Over The Air (OTA)」により2つのフェーズに分けて直接クルマのソフトウェアを更新しています。更新データをクルマの使用中にダウンロードし、クルマを使用していない時にインストールします。
自動車会社の中には、ソフトウェアアップグレードの収益化を検討しているところもあります。メルセデスは最近、一部車種を対象に、組み込まれている拡張機能を利用するための年間サブスクリプションサービスの提供を始めました。一方、BMWは、シートヒーターのサブスクリプションサービスを試験的に導入しています。フォルクスワーゲングループの自動車ソフトウェア会社であるCARIADのCEOは、最近受けたブルームバーグのインタビューで、自律走行機能を従量制のサービスとして提供する可能性さえ示唆しています。
3. Z世代にとって、クルマの所有という概念は、過去のものになるかもしれません。
私たちの暮らしや仕事のあり方は変化してきています。ハイブリッドなワークスタイルの導入により、自動車通勤を毎日する必要がなくなる社員が増えています。若年層の多くは、クルマの利便性は求めても、一般的に高価な買い物となり、オーナーとしての責任も重く、柔軟性に欠ける従来の所有モデルには魅力を感じなくなってきているように見えます。代わりに、そうした人たちには定額制のカーシェアリングやピアツーピアのレンタルサービスなどを通じて、必要な時だけクルマを利用する、という新たな選択肢が生まれています。オンデマンドで遠隔操作できるSDVは、このようなサービスに向いています。
カーリースは、個人の所有を避けるためのオプションとして長年存在していますが、クルマのサブスクリプションとは異なります。後者は一般的に、契約期間が短く、より柔軟で、保険やメンテナンス費用も代金に含まれていることが多いです。アウディ、レクサス、日産、ポルシェ、ボルボなど、いくつかの自動車メーカーがカーサブスクリプションのモデル化を試みています。また、多くのサードパーティもサブスクリプションサービスを提供しており、レンタカー会社にとって、これは既存のサービスの延長線上にある論理的なサービスの発展形だと言えます。一方、Borrowのような新興企業は、電気自動車のサブスクリプションに注力することを計画しています。
ミックスモビリティの革新的なサブスクリプションモデルの一例として、GetTransfer.comを挙げることができます。この企業は、自動車、ヘリコプター、飛行機など、多種多様な移動手段の貸し切り、レンタルや移動サービスを顧客に提供しています。
4. 問題が発生したことに私たちが気付く前に、クルマが自ら、整備士とのアポイントを取ってくれるようになります。
ネットワークに接続された自動車は、リアルタイムの車両診断を送信し、その診断結果は今後ますます洗練され、より便利な予知保全スケジュールのプランニングに活用されるようになります。
人工知能 (AI) を使った高度な分析から得られるフィードバックにより、クルマは差し迫った問題を修理工場やディーラー、あるいは直接メーカーに知らせることができるようになります。診断情報は事前に整備士と共有されるため、彼らは必要な部品を予め注文しておけるようになります。この技術により、クルマの整備が必要になる問題を発見するドライバーの責任も部分的に軽減され、交通安全の向上も同時に図れるようになります。
例えば、自宅での整備サービスを提供している米国の電気自動車メーカーRivianは、「コネクテッドビークルプラットフォームを通じて、遠隔でも総合的な診断を可能」にする技術を持っていることを明らかにしています。そしてその技術を通じて「当社の車載センサーと予測アルゴリズムにより、ほとんどの問題を未然に発見することができ、多くの場合、お客様が問題に気付く前にお知らせすることができる」とも述べています。
さらに、個々のクルマから得るデータは、エラーやメンテナンスが必要となる問題をメーカー側で記録するためのログとして集約されます。このデータが増えることで、メーカーはより正確に傾向を把握し、車両とその構成部品のライフサイクルの早い段階で問題を特定できるようになります。
5. 未来の電気自動車は、水素を燃料にしているかもしれません。
世界の電気自動車 (EV) 販売台数が急増しています。世界最大の自動車市場である中国では、すでにEVが市場の21%を占めています。コンサルティング会社のAutoForecast Solutionsは、2029年までに北米市場の3分の1、世界で生産される自動車の約26%をEVが占めると推測しています。
とはいえ、EV用バッテリーのコスト上昇、納車の待ち時間や部品調達に要する期間の長さ、需要増に合わせた充電インフラの拡張の問題などが、すでに普及に影響を与えています。世界の多くの都市で整備され始めている公共の充電ポイントで、EVのドライバーはフルチャージにまだ1時間以上も待たされています。
SDVは、スマートルーティングとエネルギー最適化機能により、これらの問題の多くを軽減することができます。しかし、その動力源となる代替燃料の確保が急務となっています。
ドイツのシュトゥットガルトにあるDLR車両コンセプト研究所で行われた水素燃料電池の初期テストでは、水素を最大6.3kgまで充填できるタンクを搭載した自動車なら、およそ100kWhの電力を生成できることがわかりました。これは、1人暮らし世帯の1カ月あたりの平均消費量に相当します。SDVの進化と普及が見込まれる中、自動車業界における代替燃料のさらなる開発が期待されます。
結論
新しいSDVの世界では、自動車メーカーはソフトウェア開発に力を注ぐ必要があります。しかし、そのような転換を図る上で欠かせない有能な人材は世界的に不足しています。そのため、この分野で長年の経験を持つ企業との提携を進めることが打開策の一つになっています。例えば、CARIADはDXCの系列会社であるLuxoftと提携し、フォルクスワーゲンの全ブランドでクラス最高のユーザーエクスペリエンスを実現するために、数千人のソフトウェアエンジニアを育成しています。
SDVの進化に伴い、クルマの設計・製造方法から、それをいかに使用し整備するか、そして拡大し続ける自動車業界のエコシステムとの相互作用をどのようにより密接化していくかに至るまで、刺激的な変化が訪れようとしています。DXCとLuxoftは、自動車業界にとってこれほどエキサイティングな時代はないと信じています。