DXCテクノロジー・ジャパンのカントリー マネージング ダイレクター 西川望(写真:右)が、気鋭の経営者に聞くシリーズ。第1回は、ServiceNow Japan 執行役員社長の村瀬将思氏(写真:左)をお招きしました。村瀬氏がどのような思いで日本企業の変革を支援しているのか、日本企業が変革を成功させるために本当に必要なものは何か。2人の熱い議論を通してその一端をお届けします。

※本インタビューは2020年8月に実施されたものです

 

「オフィスが会社の象徴だったが、今は直属のマネージャーが会社」(村瀬氏)

(西川)2020年4月の緊急事態宣言後、日本企業は一斉にテレワークにシフトしました。それから半年近くが経過して、ビジネス環境は大きく変化し、企業活動も変化を余儀なくされました。経営者に求められる役割や行動も変わってきたように思います。

(村瀬氏)そうですね。経営者として先を見て予見を示していく、いわゆるソートリーダーシップがますます重要になっていると感じます。また、いま私が最も重視しているのが「マネージャー教育」です。在宅勤務があたりまえになって「会社=オフィス」ではなくなりました。社員が、オンライン会議で頻繁にコミュニケーションする相手は直属のマネージャー。社員にとっては、「直属のマネージャーが会社と同等の存在」になっているのです。

(西川)マネージャーのリーダーシップやコミュニケーションスキルが、社員のモチベーションを決めてしまう可能性が大きいですね。特に、現場に近いファーストラインマネージャーの教育はますます大事になります。チームの強さ、競争力を決めるとも言えますね。

(村瀬氏)その通りです。現場の社員を叱咤激励するだけでなく、どうしたら上手くいくか、課題を乗り越えられるか、コーチングしていくようなマネジメントスタイルに変えなければなりません。部下に自分の背中を見せる、というのが、私も含めて長らく日本流のマネジメントでしたが、グローバルスタンダードに転換する時期がいよいよやってきたとも言えます。

(西川)そのためには、マネージャーも社員もジョブディスクリプション(職務や責任範囲の規定)を作って、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮できるような組織に変わらなければならないですね。

 

「ニューノーマルで、日本のディスアドバンテージが解消された」(西川)

(村瀬氏)私が成功したマネジメント改革のひとつに、米国本社やアジアリージョンのエグゼクティブを毎週のように日本に呼んで、お客様や社内とのミーティングに参加させることを定着化させたことがありました。これによって、彼らの日本への見方が明らかに変わりました。ハッキリと「日本のビジネスの成功は自分の成功」として認識してもらえたのです。

(西川)同じ経験が私にもあります。今は実際の行き来はできなくなっていますので、完全にオンライン会議にシフトしていますが・・・でも、それによって地域格差はまったくなくなりました。米国からの渡航に片道12時間、という日本のディスアドバンテージが解消されました。これってニューノーマルですよね。

(村瀬氏)まさにニューノーマルです。先日、「ニューノーマル時代のDX戦略」と題したCxO向けラウンドテーブルを朝8時からオンラインで実施したのですが、ご招待した方のほとんどのエグゼクティブが参加するという嬉しい悲鳴があがりました。お客様は本当に忙しい方ばかりですから、長い時間拘束されず気軽に参加できることにもメリットを感じていただけたようです。

(西川)それは良いアイデアですね。デジタルプラットフォームさえ使いこなせば、コミュニケーションもビジネスも時間や場所の制約を受けることがないわけです。

 

「在宅勤務で家族との時間が増えたことで、自身の価値観が再定義された」(村瀬氏)

(西川)一方で、4月以降に入社した新入社員と中途採用の社員については、どうやってDXCの文化や会社全体を知ってもらうか少し苦労しています。オンライン中心のコミュニケーションでは、どうしても直属のマネージャーや参加しているプロジェクトだけしか見えないのです。

(村瀬氏)社内の横を知る、全体を知るというのは重要ですね。私たちも、社内のあの人がどんな仕事でどれだけの成果を上げているか、といった情報を共有できる仕組みの整備を始めたところです。営業のリーダーがプリセールスのスタッフをトレーニングするような、クロスファンクションの施策も有効ではないでしょうか。

(西川)なるほど、ただ、オンラインでも様々な施策をやればできるとわかったけれど、やはりフェイストゥフェイスでやりたい、早く出社許可を出してほしいという声が高まってきてもいますよね。

(村瀬氏)そこはもう少しグッとこらえて・・・いま社員に我慢を強いることもリーダーの務めでしょう。半年近く在宅勤務を続けて、家族と過ごす時間が増えて、私自身の価値観も再定義されました。これまで仕事で成果を上げることがすべてだったのが、自分が良い仕事をしているか、社会に貢献できているか、と常に考えるようになりました。家族の将来や健康のこともこれまで以上に考えています。

 

「日本企業をもっと強くしたい、日本企業の従業員の働き方も変えたい」(村瀬氏)

(西川)ServiceNowとDXCはともに米国の会社ですが、日本法人トップとして日本に対してどのように貢献したいとお考えですか。

(村瀬氏)私は30代をインド本社のITサービス企業であるアイゲート社で、40代前半をヒューレット・パッカード社で過ごしました。世界を相手にするビジネスで強烈な印象として残っているのは、「日本人の常識にとらわれたままではいけない」「変わらなければ未来はない」という実感です。いま、ServiceNowで日本企業のデジタル変革のご支援をしているのは、日本企業の従業員の働き方を変えたい、日本企業をもっと強くしたい、日本の社会をもっと良くしたいという強い思いからです。

(西川)世界を相手に戦うには強烈な個性や押しの強さも必要です。日本人も日本企業も、もっと強くならなければならないと日々実感しています。

(村瀬氏)ServiceNow Japanとしては、グローバルの良いところはきちんと認めて採り入れる。採り入れたうえで「日本ではさらにこんな工夫をしてすごい成果を出している」と大きな声でグローバルに発信することを心がけています。声の大きさで他の国に負けてはいけません。(笑)

(西川)日本企業は組織やチームプレイを重視してきましたが、標準的な教育で人材を育てることから、ひとり一人の個性を活かす教育へ変わっていくべきでしょうね。そして、自分のキャリアを自分自身で考えて設計し、それを会社が支援していくというのが理想的だと思っています。

 

「世界がフラットになって、本当の意味でグローバリゼーションが到来した」(西川)

(西川)世界中で一斉にテレワークにシフトしたことで時間と場所の制約がなくなって、世界がいきなりフラットになりましたね。本当の意味でグローバリゼーションが到来したとも言えます。日本企業は早くこの状況を受け入れて、競争優位性を獲得しなければなりません。

(村瀬氏)日本人ならではの良さを活かしながら、グローバリゼーションに対応していくことが必要です。たとえば、経済産業省では「おもてなし2.0」と言っていますけれど、日本企業が本来持っている力と、デジタル変革による標準化を掛け合わせた「ハイブリッド型」がひとつの方向性かもしれません。

(西川)経営トップが、日本の強みをどう活かして新しい企業像をつくるかを真剣に考えるときですね。次の世代のためにも、私たちの世代がやらなければなりません。

(村瀬氏)デジタルプラットフォームとデジタルワークフローを積極的に活用し、人にしかできない付加価値のある仕事の創造を行えれば、日本企業の文化も変わり、もっと個性的でもっと強力な日本企業が出てくると期待しています。自分の子供たちに誇れるような仕事をたくさんしていきたいですね。

 

「優秀な人材の確保に必要なのは、経営者の先見性とリーダーシップ」(村瀬氏)

(村瀬氏)私自身も「価値観の再定義」を経験しましたけれど、ニューノーマルの時代には人の価値観はもっと多様化して、人材の流動化はさらに進むものと考えています。それぞれ多様な価値観を持つ優秀な従業員たちをしっかりと維持していくためには、企業は本当の意味での「柔軟な働き方」を提供できなければなりません。

(西川)ServiceNowのようなデジタルプラットフォームをうまく活用して働き方を柔軟にすると。

(村瀬氏)ひとつはデジタルプラットフォームを活用したDXですが、もうひとつは「制度」です。本当に柔軟な働き方を実現するために、会社のポリシーをどう見直して就業規則を再整備していくか。デジタル化と制度の両輪で変革を進めていくために、経営者の先見性とリーダーシップが求められています。

(西川)売上の維持、ビジネスの継続性、人材の確保――ニューノーマル時代におけるこの3つのテーマは、一体のものとして取り組むべきでしょうね。その実行基盤として、デジタルプラットフォームを含むITを積極的に活用すべきだと思います。

(村瀬氏)最近は、CIOだけでなくCEOやCHROの方とお話をする機会が増えました。皆さんに共通しているのは、これらの変革へ強い意思を持っていらっしゃることです。まさに変革を行うタイミングは今”Now”だと思います。

(西川)力を合わせて日本企業をもっと強く、社員の働き方をもっと柔軟に、日本の社会をもっと良くしていきましょう。今日はありがとうございました。

(村瀬氏)ありがとうございました。