2020/10/05
by 吉見 隆洋 / 小田 信之
日本の医療機関で保険診療に用いられる医療用医薬品の数はおよそ1万4,000品目、市場規模は10兆円を超えています。私たちの健康に欠かせない医薬品は、国によりその安全性と有効性を認められたものだけが病院や診療所などを通じて提供されますが、新薬の製品化には厳しい試験や治験を経なければなりません。また、市場に出てからも使用方法や副作用など「安全性」に関する正確な情報管理が求められます。
今回は、製薬企業における医薬品の安全性情報や症例情報の管理を効率化し、安全性情報管理に関連する業務を支援するパッケージソフトウェア「ClinicalWorks(クリニカルワークス)/ADR」をご紹介します。
ClinicalWorks/ADRは、DXCテクノロジー・ジャパン(当時は日本DEC、その後、コンパック、日本ヒューレット・パッカード)が国内で開発したサービスです。ADRとは、このサービスで情報を管理する「Adverse Drug Reaction(副作用)」の略です。1994年の登場以来、国内製薬メーカー様を中心に幅広い支持をいただいています。オンプレミスやパブリッククラウド(IaaS)環境に加え、DXCが提供するSaaSとしてもご利用いただけます。
新薬の多くは10年・20年に及ぶ開発期間を経てようやく世に出ます。ですが、医療の現場で実際に使われることで初めて、好ましくない作用が発見されることは珍しくありません。特定の持病を持つ人や、他の医薬品との組み合わせによる副作用は、多くの試験を経ても完全には把握しきれないのです。
新たな副作用の情報を捉えて速やかに関係者で共有するため、製薬企業は医薬品の安全性に関する情報を日々収集・分析し、必要に応じて当局(厚生労働省 医薬品医療機器総合機構:PMDA)に報告することが義務づけられています。
国内製薬企業のニーズを捉えてDXCテクノロジー・ジャパンが開発
医薬品における「安全性情報管理」は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)により規定されています。製薬企業は、臨床試験中の新薬やすでに提供している医薬品について、膨大な安全性情報を管理するとともに、報告義務のある事案が発生すると決められた期限内に対応しなければなりません。数100人規模の「安全性情報管理部門」を編成している製薬企業もあるほどで、その業務の広さ、大きさ、重要性を想像していただけるかと思います。
ClinicalWorks/ADRは、安全性情報の収集から、社内での評価、当局への報告、医療機関などへの情報提供に至るプロセス全体を網羅し、関連する業務の効率化・省力化に寄与します。「副作用などの情報に対し、それが既知か未知か、報告が必要か、緊急度はどうか適切に判断しなければならない」「安全性情報の正確性・正当性を担保しながら必要な報告・情報提供を迅速化したい」――こうしたお客様の現場のリアルなニーズに応えるために使いやすい機能が作り込まれています。
直感的でユーザーフレンドリーな画面構成と操作性、お客様の業務ノウハウを取り込んだ集計機能、ER/ES指針に準拠した確定承認機能や監査証跡機能など、DXCは日本の製薬企業の皆さまの声を聞きながらClinicalWorks/ADRの機能を拡充させ、規制変更にも適切かつタイムリーに対応してきました。日本国内での開発のメリットを、お客様に実感していただけているものと自負しています。
製薬業界の変化に適応するClinicalWorks/ADRの進化
製薬業界はグローバルでの競争が激化しており、国内では医療費の抑制を図るため薬価の値下げ圧力が強まっています。今後、新薬開発のスピード化・低コスト化はますます重要な課題になっていくものと思われます。創薬インフォマティクスのような新しいチャレンジに期待がかかる一方で、たとえAIの時代になっても「安全性情報管理」の重要性に変わりはないと私たちは考えています。
新たなお客さまでも手軽に利用できるよう、そして、安全性情報管理の裾野を広く支えたい、との想いからSaaSとして利用できる「ClinicalWorks/ADR Cloud」も投入しています。オンプレミスで導入されたお客様を、Microsoft Azureへ移行するプロジェクトも具体化しつつあります。
DXCテクノロジー・ジャパンは、グローバルITカンパニーとしての規模と遂行力を活かしながら、日本のお客様に寄り添ったClinicalWorks/ADRの強化を進めていく計画です。例えば、がん領域で増大する情報への対応などです。また、次世代バージョンでは機能を大きく拡充させています。もちろん、これまで通りお客様固有の要件に合わせた設定や追加開発にも、柔軟に対応できますのでご安心ください。
とても大事な「クスリのリスク」を支える「身近なところにDXC」の第4回、いかがでしたでしょうか。次回はちょっと視点を変えて、DXCテクノロジーの新たな取り組みをご紹介したいと思っています。どうぞお楽しみに!