Jock Clear氏との対談
スクーデリア・フェラーリのJock Clear氏が、モータースポーツにおけるテクノロジーパートナーシップの役割や、終わりのないイノベーションの追求、テクノロジーを原動力として運転のパフォーマンスにおける究極の目標を達成する方法について、DXC Technologyのアジア太平洋地域担当グローバルリードであるSeelan Nayagamと対談しました。
Clear氏は、F1のパドックで最も尊敬されている人物の1人です。2015年にスクーデリア・フェラーリに加入したことで、30年以上にわたって500戦以上のグランプリレースで得た貴重な経験を同チームにもたらしました。 これまで、Michael Schumacher、Lewis Hamilton、Jacques Villeneuveといった偉大なレーシングドライバーを始めとする8人の世界チャンピオンドライバーと仕事をしていますが、そのリストに新たな名前を加えるという情熱を、このスポーツで最も成功した同チームと分かち合っています。
Clear氏とNayagamとの対談を上記の動画で、また以下のQ&Aからご覧いただけます。
Q:スクーデリア・フェラーリのイノベーションとテクノロジーの可能性をサポートする上で、DXCをはじめとしたテクノロジーパートナーが果している役割について教えていただけますか?
A:現在の多くの業界と同様に、モータースポーツでの先進テクノロジーの役割は日々大きくなっています。私たちが活動している環境は競争が厳しいので、あらゆるイノベーションがサーキットの内外でチームに優位性をもたらす可能性があります。つまり、目の前の優位性も長期的な目標も実現する可能性のある、あらゆる技術分野で最前線を走り続けることがチームとして極めて重要なのです。そこで、私たちのパートナーの出番となります。
モータースポーツでの過去のパートナーシップを振り返ると、昔ながらのエンジン技術や空気力学、軽量化が重視されていました。しかし、モータースポーツのルールが厳しくなるにつれて、パートナーシップの範囲が拡大し、現在私たちが目にするような、より高度なテクノロジーパートナーが求められるようになりました。これらのテクノロジーパートナーシップが、モータースポーツの進化を加速する役割を果たしていることは間違いありません。
私たちがレースの専門家であることに変わりはありませんが、それぞれの分野のリーダーであるパートナーをフェラーリファミリーに迎え入れて、共同で作業することは喜ばしいことです。私たちは、パートナーが各分野での最先端を走り続け、その専門知識を共有してくれることで、専門的なテクノロジーソリューションの開発が可能になると信じています。彼らの知識の共有と最新情報があるからこそ、スクーデリア・フェラーリはテクノロジーがもたらす潜在的なチャンスをつかむことができるのです。DXCについては、ヒューマンマシンインターフェイス (HMI) でのデジタルエンジニアリングが担当分野となっていますが、不可欠なインフラを確保する上で重要な役割を果たしてくれているので、私たちは競争力を維持することができます。
Q:フェラーリはどのようにコックピットの設計に行動科学を組み込み、複雑なものを直感的なものに変えているのでしょうか。
A::私はこれまでのキャリアで大勢のドライバーと仕事をしてきましたが、一貫して変わらないことは、どのドライバーもそれぞれ好みのセットアップがあるということです。1000分の1秒が勝敗を左右するスポーツでは、人間工学に基づいたセットアップとすばやい意思疎通が不可欠であり、それは10年前よりもさらに重要になっています。このことを念頭に置いて、私がこれまでに担当してきたすべてのマシンでは、運転席の位置やフィット感、各ペダルの感度、そして最も重要なステアリングホイールなどが異なる、独自のコックピットを備えています。
ステアリングホイール自体がマシンにとって重要であることは当然ですが、その機能は単に車体を左右に向けるだけではないのです。クラッチパドルとシフトパドルとともに25個を超えるボタンとスイッチが並んでいて、マシンの戦略、ブレーキバランス、ディファレンシャルなど、数多くの設定を調整できます。ステアリングホイールは、ドライバーがF1サーキットごとに異なる難所を走り抜けるためにピットウォールからのアドバイスを受けながら操作するものなので、ドライバーにとって可能な限り人間工学に基づいて設計されている必要があります。
ピットウォールについて話すと、ここはドライバーの車内体験を管理する上で同じように重要です。ピットウォールはコース上でドライバーに次いで重要な席ではないかと思いますが、マシンから絶え間なく送られてくるデータを分析するチームが控えており、パフォーマンスを最大化するために、マシンのセットアップの調整やドライバーがとるべき行動についてアドバイスしています。これらの情報は、ドライバーにとって適切なタイミングかつ可能な限り最もシームレスな方法で伝える必要があります。パフォーマンスを解き放つには、ドライバーに最もフィットする物理的なセットアップと、そのセットアップから最大のパフォーマンスを発揮できるように支援する継続的なデータを組み合わせる必要があります。この両方が適切な状態になったときこそ、ドライバーがマシンから得るパフォーマンスが引き上げられます。
Q:フェラーリはマシンからパフォーマンスを引き出すために、どのように技術革新を活用しているのでしょうか?
A:パフォーマンスがすべてであることはビジネスなどの多くの世界と同じですが、F1は2週間ごとに対戦相手との評価を繰り返す必要がある独特な世界です。つまり、今私たちがいるこの場所からでも、イノベーションを開始する必要があるのです。各走行セッションの後、私たちはマシンから得られる数百万のデータポイントを何時間もかけて分析し、どのコーナーでうまくいき、どのコーナーでうまくいかなかったのかを正確に把握します。そして、これから直面する状況に応じて特定の領域をターゲットとし、全体として継続的な改善が期待できる方法を見つけ出します。現在はモータースポーツの規制が厳しくなっているので、空力やエンジンモードを変更するといった単純な方法では収まりません。私たちは既成概念にとらわれずに考え、利用できるデータを革新的な方法で活用する必要があります。
これらの課題をすばやく解決するために具体的な支援が必要な場合、私たちは車両を作り直そうとするのではなく、専門家のもとに向かいます。私たちは洗練された技術革新を見つけ、必要としているものと完全には一致しない場合でも、それらのソリューションを私たちの活動に適用できるよう支援してくれる専門家を探します。このような方法でパフォーマンスをすばやく向上させることができ、こうした取り組みがフォーミュラ1の急速な進化に貢献しています。
モータースポーツで収集できるデータは増え続けています。私たちのイノベーションの力は、このデータを有意義に処理する能力を備えたテクノロジーインフラに直接左右されます。この分野こそ、パートナーの出番です。私たちはパートナーの支援により、これらの貴重なデータを取得、保存、保護するだけではなく、インサイトの処理や割り出しを行い、成果を導き出せるようにインフラを整備しています。
インサイトに富んだ結論を導き出すには、インフラとコンピューティング能力に加えて、私たちのチーム自身の能力も大切です。スクーデリア・フェラーリのスタッフは全員が自らの専門技術の達人であり、入手可能な大量のデータを活用することで、スタッフ一人ひとりが設計からレース戦略に至る専門知識を磨き、より優れたパフォーマンスを追求し続けています。
Q:このようにペースが速くて、プレッシャーが大きく、世界規模で活動するスポーツで成功するために、テクノロジーと情報インフラに何を求めていますか?
A:正確な答えを知っていれば、私たちはこのスポーツで数年先を行くことができるでしょうね。というのも、私たちは皆、新しいテクノロジーを活用してもっと多くの情報を利用できるように取り組んでいる最中だからです。圧倒されるほど大量の情報ですが、私たちはコース外にいても、コース内と同等以上に速く対処する必要があります。そして、重要な情報にたどり着き、チームが注力すべきクリティカルパスを割り出す必要があります。つまり、レースが開催される週末という大きなプレッシャーの中で、違いを生み出すデータポイントに絞り込み、情報に基づいた意思決定を行うには、テクノロジーと情報インフラのスピードと信頼性が不可欠なのです。
コース上でマシンを限界まで突き進めるのはドライバーですが、ドライバー自身はエンジニアではありません。コミュニケーションを取る際には、データから導き出された結論を明確かつ簡潔にし、私たちが取ろうとしているレース戦略にドライバーが確信を持てるようにする必要があります。ドライバーにはそれぞれ個性があるため、私たちはより効率的なエンジンやウィングを単に製作するだけではなく、ドライバーやマシンから得られたデータを基にさらなる努力を重ねています。私たちは、最新のテクノロジーソリューションを活用する方法を見つけ出して、最適なインフラを確保し、ドライバーとマシンがともに少しでもパフォーマンスを向上させる方法を容易に探し出せるようにしたいと考えています。
コースにいるエンジニアとマラネッロに戻ったエンジニアの仕事の中心になるのは、複雑なデータを高速かつ完全に明確に処理することですが、特にレースが開催される週末は状況が急速に変化するため、レースを決定付ける可能性のある判断を下すまでに数秒しかない可能性もあります。つまり、週末のレースに向けて、そしてレース中に私たちがドライバーに伝えるあらゆる情報により、ドライバーがパフォーマンスを発揮できるのです。これは、私たちの重要なインフラが、高い競争力を維持するための重要なステップであることも意味しています。
Q:稼働中の重要なインフラを将来に向けて進化させても、現在の能力にリスクが伴わないようにするために、スクーデリア・フェラーリはどのような取り組みを行っているのでしょうか?
A:チームの環境で操作を行う場合、常にイノベーションを実現できるように努めていますが、現在の能力を損なわない限りという条件が付きます。もちろん、これは私たちがリスクを回避しているという意味ではありませんが、私たちはモータースポーツで他の9チームと競っており、どんな場合でも後退するわけにはいきません。
つまり、私たちが新しいテクノロジーソリューションを追求する方法については、それぞれの専門分野で、その選択肢の開発、テスト、提供をパートナーに任せています。DXCの場合は、ドライバーのためにより良いヒューマンマシンインターフェイスを構築する方法を考えてくれています。パートナーがコース外でイノベーションを実現してくれるので、新しいテクノロジーソリューションと重要なインフラを安心して利用できるようになるまで、私たちはコース内での活動を維持できます。新しいテクノロジーソリューションや重要なインフラを安心して配備するには、それらがレースで確実に動作する必要があるのです。
Q:どのようなテクノロジーや技術的専門知識が、現在のシーズンで結果を出し、次のシーズンに向けて強化していく上で役立っていますか?
A:来シーズンの新型マシンの開発プロセスは、今年のマシンがテスト走行でバーレーンのコースに出た瞬間から始まりました。今年と来年に向けて改善すべきパフォーマンス不足を特定するために、私たちはシーズンを通じてマシンから大量の情報を収集しています。
インサイトを照合、処理、推定できるテクノロジーはすべて、来年のマシンを製作するための鍵となります。私たちは高度なテクノロジーを利用して理論をテストしますが、これは物理的に何かを製作する前の重要なステップです。というのも、テストによって望ましい結果が示された場合にだけ時間とリソースを投資したいからです。
テクノロジーとの関係を発展させ続けることは、私たちがマシンを製作し、シーズン中にアップグレードする上で必須の要素です。私たちの専任エンジニアチームは、エンジニアリングからソフトウェア設計、ハードウェア設計に至るまで、数多くの分野の専門家です。
チームの各メンバーは高度なテクノロジーやその他のデータインフラツールの可能性を探り、より良いマシンを作り上げようと常に新しい方法を探しています。「車体の角度を変えたら、ほんの少しでもいいからタイムを短縮できるだろうか」とか、「昨シーズンのデータから、ドライバーの体験を改善できる情報が見つからないだろうか。たとえば、マシンのコックピットのセットアップなどで、ドライバーが力を発揮しやすいようにできないだろうか」といったことをいつも考えているのです。
運転のパフォーマンスを向上させるために、私たちは最先端のテクノロジーを導入する方法を模索しています。このため、新型マシンを開発する際には、パートナーやより広範なテクノロジー業界とともにオープンアプローチを実践することが最も重要です。
DXCからのメッセージ
私たちは、スクーデリア・フェラーリのオフィシャルパートナーとして、2つのチームがそれぞれの分野で卓越性を発揮できるように深い専門知識を追い求め、お互いに情熱を持って力を合わせていることを誇りに思っています。不可欠なイノベーションとテクノロジーの未来の探求を推進し続けるという私たちの共通の情熱こそが、私たちがパフォーマンス駆動型のテクノロジーを実現する原動力となっています。DXCは、レーストラックから役員室に至るまで、あらゆるビジネスと協力して、競争力を維持するために必要不可欠な進化を実現することを目指しています。スクーデリア・フェラーリとのパートナーシップの詳細と最新情報をぜひご覧ください。